国の赤字がこれほど多いということは、当然どこかがものすごく黒字

asahi.com(朝日新聞社):新規国債53.5兆円 今年度税収36.9兆円 財務相 - 政治

ものすごい赤字です。おそらくこれで鳩山内閣の支持率は下がるんでしょう。でも、これほどまでの赤字をつくらなければ、今度は逆に経済の停滞、失業率の増大によって、やっぱり鳩山内閣の支持率は下がっちゃうんでしょうね。


そこで、ふと思ったんです。
国の赤字がこれほど多いということは、当然どこかがものすごく黒字だということ。
日本という国全体(マクロレベル)で考えると、国家財政が赤字だということは、国家財政以外のどこかが黒字だということでもあるわけです。当たり前ですね。みんなが赤字だったら、日本経済全体が赤字になるはずだけれど、日本は黒字国です。


で、日本は歴史的に家計部門がずっと黒字。家計貯蓄率の高さは、他の先進国を圧倒します。とはいっても、ここ10年くらいは、この家計の黒字は大幅に減ってきました。貯蓄を増やしていく現役世代に対して、逆に貯蓄を減らしていく高齢世代の割合が増えたこと。つまり高齢化の進行によるものと、給与所得が増えない → 貯蓄も増えないという、低所得層の増加によるものと考えられています。(でも、そこそこ所得のある人でみれば、貯蓄率は変わっていないどころか、むしろ増えているということらしいです)
一方、大幅に黒字化しているのが民間企業。もともと企業部門は成長前提のもと設備資本等を増やしていく = 借金も増やしていく、という赤字主体の代表でした。特に高度経済成長期には、日本人の高い貯蓄率に見合うほどの、資金需要 = 企業の投資(借金)の需要があり、日本の貯蓄率の高さが成長を促進したとも言えるんです。ところが、バブル崩壊以降は、企業はその膨大な借金を減らし(= 黒字)てきました。さらに、成長しない = 将来の期待収益率が低い、となると、企業は自己資本内部留保)が多くなければ、ファイナンスが難しくなる(お金を貸してもらえない)という問題もあって、貯蓄も増やしてきました。つまり企業が黒字主体になってきたんです。


で、家計も黒字で企業も黒字だったら、どこが赤字になるのか?
今までは公共部門(国や地方自治体)に加えて、アメリカという赤字を引き受けてくれるところがあったわけですが、そのアメリカの赤字はこの経済危機によって、一挙に減ってしまいました。となると、家計と企業の黒字を支えるのは、公共部門の赤字しかないわけです。


それでは、その公共部門の赤字を減らせば、どうなるのでしょうか?
当然家計や企業の黒字は減ります。単純に総所得が黒字分だけ減ればまだいいんですが(いちばんいいのは民間需要増で民間の黒字(貯蓄)が減るということなんですけどねえ...)、実際は、それでも貯蓄を維持しようと個々の経済主体は考えるので、総所得はもっと減るかもしれません。
例えば、今まで年収1000万で、そのうち100万を貯蓄に回していた人がいるとします。つまり年間100万の黒字です。で、この黒字が減るには、年収が減るか、消費が増えるかどちらかしかありません。一方、国が赤字を減らすためにすることといったら、支出を減らすか、収入を増やす=増税ですね。そうすると、国の赤字減の影響で、この人の黒字が減るとしたら、消費が増えるんではなくて、所得が減るということになるのは間違いありません。
それでは、所得が900万に減ったら、この人の黒字は0になるのでしょうか?そんなことはないですよね。おそらく消費を減らして、80万くらいを貯蓄に回すんじゃないでしょうか?いやいや、逆に将来に不安を感じて貯蓄に回す金額を増やすかもしれません。そうなると、この黒字が大きく減るためには、よっぽど所得が減らないと無理でしょうね。
それでは企業はどうなるのか?おそらく企業のほうが赤字をやむなく受け入れざるをえないでしょう。でも、そうなると今度は資金調達が難しくなり、なかなか投資(借金)ができなくなる。さらに個人消費の落ち込みも、企業の投資行動に影響を与えます。
つまり、公共部門の赤字を減らせば、国民生産、国民所得の総量が減り、当然失業が増えます。企業の業績も良くなく、税収も減って、結果思ったほど赤字は減らないかもしれません。


思い出してみてください。1990年代、橋本内閣は財政健全化のために、構造改革を行い、さらに消費税を5%に上げました。結果、不況を深刻化させ、そのあと小渕内閣が大量の赤字をつくることでなんとか持ち直しました。今でも、消費税増税論をよく聞きますが、たとえ増税しても、民間部門が黒字(貯蓄に回す分)を維持しようとすれば、景気が悪化することは避けられません。


何度も言います。
企業も家計も国も自治体も(さらには貿易相手国も)みんな黒字なんて、ありえないんです。


ちなみに、今の日本経済は需要不足だと言われます。ここで注意すべきは、僕らがよく知っているミクロ経済での需要・供給の関係と、マクロ経済での総需要・総供給の関係はちがうということ。ミクロでは需要側と供給側は別の経済主体ですが、マクロでは需要も供給も同じです。つまり供給が所得となり所得が需要となり需要が供給となってぐるぐる回っているんです。そして、マクロ経済での需要不足とは、黒字(貯め込む)の人たちの「総貯蓄」のほうが、赤字(借金して投資する)の人たちの「総投資」を上回ってしまうと、総所得より総需要が少なくなって総供給も減って総所得も減って...つまり総生産=総所得が完全雇用レベルより減ることで貯蓄(黒字)と投資(赤字)が均衡する状況を言うんです。


ということはですよ、企業や家計の異常なほどの貯蓄性向の高さをなんとかすることが、国の赤字を減らす根本的な対策になるはずですよね。そして、そのためには「個人の消費を増やす = 個人の貯蓄を減らす」ことと、「企業の投資を増やす = 企業の借金を増やす」ことを考えなくてはなりません。



まあとにもかくにも、貧困で苦しむ人たちに対して、「なんで貯蓄しておかなかったんだ!」「自己責任だ!」なんていう国では、所得が減っても、貯蓄性向は高いままでしょうから、とりあえず、そこんとこだけでもなんとかならないものですかね。ほんとに。