カレー無料ネタに反応してみた

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もしも「カレー無料法」ができたら - モジログ
ついでに、はてブの反応。
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はてブのコメントが壮観ですねえ。
現実の世の中、それこそ程度の問題やケースバイケース、個別具体的、という、認識に手間がかかったり面倒くさい判断が必要なものがほとんどなわけで、そういう厄介な現実と正面から向き合うことが苦手な人に限って、こういう単純な議論を好むんでしょうね。昔、左翼の一部の人たちがなんでもかんでも資本家と労働者の階級対立に収斂させてしまうような議論をしていたけど、それと同じノリを感じてしまいます。


これ、どこで知ったかというと、紙屋高雪さんのブログ。
「カレー無料法」の馬鹿馬鹿しさは比喩の馬鹿馬鹿しさだ - 紙屋研究所
紙屋さんは、あまりの馬鹿らしさにあきれつつも、真面目に反論しています。


僕も、あんまりこんな議論に付き合いたくはないのですが、一言で言ってしまえば、このカレーの例えは「市場への介入が非効率を生む」という話ではなく、「公共性のない価値に公的な資源を投入しても、公共に資することはない」という話でしかない。
だから

国民からは「カレー無料法」を撤廃せよという声も強くなってきた。「カレー補助金」はけっきょく税金から出ているので、カレーをあまり食べない人にはむしろソンになっているからだ。

ということになる。
そりゃそうだ。カレー好きの人にはおいしい政策かもしれないけど、世の中にはカレー嫌いだっている。僕もカレーは月1くらいでいい。そんなに食いたくはない。カレーが「公共性」を有すると認められるかどうか、と問われれば答えは簡単。公共性なんてほとんどない。だから、この話はわかりやすく感じられちゃうのでしょう。
でも現実の世の中には、どの程度「公共性」を有しているのか、グレーな事柄に溢れています。


「公共性」が比較的認められやすいもの。例えば水道やら電気やらは、国民のほとんどが受けるサービスであるという意味では、とても公共性が高い。でも一方で受益者負担の原則に立ちやすいし、採算も合いやすいので、安全性や安定供給、適正な価格が担保できる程度での公的な介入にとどめるべきなんでしょう。医療は?となれば、これは病気にかかった人が必要とするもので、めったなことでは病気にかからない健康な人にはあまり関係ない。でもいざ病気にかかった場合に、受益者負担主義だと必要とする人に負担能力がなければ必要な医療を受けられないし、医療を受けられなければ、生存権とか健康的な生活を送るといった基本的人権をも脅かされてしまう。それゆえ「保険」的な制度が、それもできるかぎり公的な制度が必要となる。教育は?と言えば、高等教育については受益者が負担すべき、という考えもありかもしれないけど、教育レベルの向上は、回り回って国の経済的・文化的な豊かさにつながるという点では高い公共性を有しているとも考えられるし、教育を受ける権利は誰もが有する、と考えればやはりなんらかの公的な補助は必要になる。
でも、地方に新幹線や高速道路をつくることが、公共性が高いのか?とか、スポーツや文化振興は公共性が高いのか?はどうでしょう。さらに具体的にスーパーコンピューターは世界一でなければならないのか?とか、八場ダムは必要なのか?とか、パチンコ業界は規制が必要なのか?とか、このあたりになってくると、もうとってもグレーです。


問題は、「公共性」の判断はどうあるべきか?であり、さらには公共的なものの価値を高めるためにはどのような介入・制度が適切なのか?が重要なはずであって、とにかく面倒くさい個別具体性を有する話なわけです。それで、こういう厄介ですっきりしない議論では満足できない人が、往々にしてシンプルな答えを求めてしまうことにこそ、大きな罠が潜んでいるように思えます。



それからついでに。
mojix氏のカレーの話で気になるのは、「市場への介入が非効率を生む」という話の典型ではないということ。「市場への介入が非効率を生む」という話の典型は、例えばカレー産業を保護育成しようとして市場に介入することによって、結局のところカレー産業の発展・強化につながらないどころか、むしろ発展を阻害する、といった例ですよね。それでこの手の話も、市場の「外部性」やら「公共財」の絡み方の程度等、その環境によって結論は変わってくるので、やはり個別具体的に判断されるべきものなんだけど、mojix氏のカレーの例えは、そういう市場の非効率の話ですらなくて、監督官庁が肥大化するとか、一部の人だけ得をして許せない、っていうなんだかセコイ話になってしまっている。
なんかもう新自由主義とかリバタリアニズムなどという崇高な思想なんてものじゃなくて、「あいつらだけずるい」っていう、それこそ給食費未納問題とか生活保護不正受給とか、そういったことを殊更に問題視するノリに近いんじゃないのか?と思えてしまう。