潜在成長率と自然失業率

前々回前回に続いて、今回はGDPやその成長率と、自然失業率との関係を見てみたいと思います。

そこで、まず潜在GDPという言葉について。
スティグリッツマクロ経済学 第3版」より。

実質生産量を測るマクロ経済のもう一つの重要な指標は、潜在GDP potential GDP である。それは、労働が通常の残業の水準で完全雇用であり、工場や機械が通常の稼働率で完全に利用されたとするならば、経済でどれだけ生産できるかを示す指標である。

潜在GDPとは、供給側で決まる長期的な均衡ポイント、つまり労働で見れば自然失業率(完全雇用)で、しかも通常の残業の水準であるときの生産量(GDP)ということのようです。


では、この潜在GDPというのはどのようにして決まると考えられているのか?
現在のマクロ経済学の教科書では、新古典派の経済成長モデルであるソロー・モデルが紹介・解説されています。そして、内生的成長理論が紹介程度で触れられているというところでしょうか。
細かい話はややこしいので、簡単に言うと工場や機械、設備など投入・蓄積された資本の量と、労働力の量、さらに技術進歩によって経済は成長し、潜在GDPは決まると考えられています。そして、潜在GDPの成長率が潜在成長率ということになります。


経済成長 - Wikipedia

  • 潜在成長率とGDPギャップ

現存する経済構造のもとで資本や労働が最大限に利用された場合に達成できると考えられる経済活動水準を潜在GDPという。可変NAIRUアプローチでは、インフレ率の変化なしに達成できると見込まれる実質成長率が、潜在成長率ということになる。この潜在成長率と実際の実質成長率の差はGDPギャップと呼ばれる。なお潜在成長率を構成する要因としては資本投入・労働投入などの生産要素の投入量、これらに依存しない残差としての全要素生産性があげられる。


潜在GDPを決める労働力の量は、自然失業率水準の労働量ということになります。つまり労働人口が全く同じだとした場合、自然失業率が増えれば(労働量が減れば)潜在GDPは小さくなりますし、自然失業率が減れば(労働量が増えれば)潜在GDPも増えるということです。そして、その自然失業率とは、労働市場の硬直性などといったことによって決まるというのは、前回前々回で見てきたとおりです。


ちょっとここで、世間一般に流布している考え方を思い出してみましょう。経済成長が失速してきた、右肩上がりの時代じゃなくなってきたから、日本の雇用は不安定となり、失業が増えてきた。よく聞かれる話です。僕もなんとなくそう思っていました。
つまり、成長率:減 → 失業率:増 という関係。
でも、現在の主流派のマクロ経済学では、このような関係は短期における調整局面での需要不足(潜在GDPより実際のGDPが少ない)では生じるけれども、長期的には、市場の調整機能によって潜在成長率が達成され、失業率はあくまでも自然失業率のレベル(完全雇用)になるという考えです。
つまりは長期的に見れば、経済成長が鈍くなることによって失業率が増える、なんてことはなく、逆に
労働市場の硬直化 → 自然失業率:増 → 潜在成長率:減
という関係だということのようです。


むむむむ....。どうりで構造改革派のエコノミストたちは、労働市場の更なる自由化を訴えるわけですね...


さて、ここで最大の問題なのだけれど、自然失業率とか潜在GDP、潜在成長率っていうのはどうすればわかるのでしょうか?
実は正確にはよくわからないようなんです。つまり、現在の失業率は自然失業率より多いのか?GDPは、潜在GDPより少ないのか?GDPギャップはどの程度あるのか?ということは、現実の経済を考える上でとても重要なのですが、経済学者によって意見が分かれているんです。
そう、もう何が言いたいのかお分かりいただけると思います。現在の日本の長期的な停滞を、自然失業率や潜在成長率のレベル(つまり長期的な均衡レベル)と捉えるのか?あるいは需要不足により潜在GDP(供給)より実際のGDPが少ないと捉えるのか?によって、その対策は大きく異なってくるということです。そして、需要が不足しているのだとすれば、なぜ長期的にそのような状況になってしまっているのか?ということです。


ということで、その辺の話はまたあらためて。構造改革派とリフレ派の違いにも触れたいと思っています。




最後に、本当に長期的には経済成長も失業率も供給側の条件によって決まるのか?という疑問を。
アメリカやヨーロッパを見ても、経済成長の鈍化と、経済の不安定化、失業の増大というのは、やっぱりなんとなく関係がありそうに見えるんですよ。1970年代以降の成長の鈍化は、間違いなく経済運営を難しくしたと僕には思えるんです。(ただしアメリカの場合は金融の自由化とその後のIT革命によって持ち直したし、ヨーロッパの場合はEU統合や東欧の成長によって若干良くなってはきていたんだとは思うんですが...)
要するに今回の危機についても、「短期の調整局面」「一時的な(ただし大規模な)金融緩和や財政政策によって乗り切れる」「金融不安さえ取り除けば、再び経済は軌道に乗るはずだ」という考え方に、なんとなく???なんですよね。本当かよ、と。まあ所詮素人考えですが...