「グローバル恐慌」浜矩子

オルタ・同窓会 - まっちゃんの狂人日記
こちらの紹介で、知りました。

グローバル恐慌―金融暴走時代の果てに (岩波新書)

グローバル恐慌―金融暴走時代の果てに (岩波新書)

しかもまっちゃんの日記には、面白いリンクが...
浜矩子語録 - key person
浜矩子語録(35)浜矩子は化け物説 - key person

妖艶です。
ものすごく惹かれてしまって、読んでみました。



2008年9月15日を「地獄の扉が開いた日である」とし、債権の証券化商品の説明は、「証券化を活用する金融機関はツケで飲む客が多い飲み屋のようなものである」、「たまった請求書を切り分けたり束ねたりして、たくさんの福袋をつくるのである」、「このツケの福袋が、要するに債権の証券化商品である」という例え。さらに「原点はニクソンショックにあった」として、「ニクソン・ショック基軸通貨アメリカの脱退位宣言にほかならなかった。王様が裸であることを自ら認めた日といってよい。」と、辛辣なお言葉。現状は「さしあたり、地球経済は挙げて集中治療室に入った格好になっている。様々な生命維持装置に息を吹き込まれながら、世界の金融システムが何とか辛うじて稼働している状態である。」ということだそうです。
わかりやすい例えや、適度に毒を含んだ言い回し、そしてテンポの良さ。浜矩子さんならではの独特の文体により、今世界中が大混乱しているということが、臨場感をもって伝わってきます。とっても読みやすく個性的で魅力的な本。よくあるクソ真面目な経済本とは違いますね。


ただし、緊急出版ということで、今回の危機の本質にどれほど切り込めているのかというところでは、かなり不満が残ります。
例えば、「原点はニクソンショックにあった」として、その後アメリカの金融市場の規制が、なし崩し的に緩和されていったような話が書かれているんですが、その辺の背景がよくわからない。そもそもアメリカは、この金融市場の発展がなければ、あの70年代〜80年代前半の停滞から果たして抜け出すことができたのか?ということです。
おそらく、ニクソンショック、いやそれよりも前の1960年代半ば頃から、アメリカ経済は何かがおかしくなって、その後、経常赤字、貯蓄率の低下、資金不足、スタグフレーション → 金融の引き締め、高金利新自由主義的な政策、金融市場の規制緩和 → 世界中の資金が流入、金融市場の発展、IT革命、と様々な要素が絡み合いながら、90年代以降の安定的な発展へとつながってきているんだろうけれども、このあたりをうまくまとめて説明できているような本に僕はまだ出会っていないんですよね。今回の危機以前では、レーガン以降の新自由主義的な政策、サプライサイドな経済政策がうまくいったためと言われてきたんだけれども、実際経済を引っ張ってきたのは、金融とITなんです。そして今回の危機で、そのひとつである金融の在り方自体が、否定されかねない状態になっているわけです。つまり、アメリカの成功例が、成功例では無くなってしまったわけです。じゃあ、何が正しかったんだと...


他にも、日本の低金利政策が、今回の危機の犯人に一つに挙げられています。

日本国内で金利を稼げないジャパンマネーが、世界中に出稼ぎに行く。そのための架け橋の役割を果たしたのが、いわゆる円キャリートレードである。

世界的カネ余りのルーツが日本のゼロ金利政策にあったとすれば、サブプライム証券化商品問題と日本の間には切っても切れない関係があるとさえいえる。

そもそも、日本はデフレ危機に陥っており、金融緩和するしかなかったはずです。逆にアメリカが魅力的(でもインチキ)な金融商品を用意しなければ、むしろ日本の低金利資金は日本国内の投資に向かったかもしれない。アメリカのせいで、なかなか日本経済は回復軌道に乗れなかったという考え方もできちゃいます。で、この辺のことを考え出すと、背景にアメリカと日本の対外収支の不均衡の問題が浮上してきますし、考え出すとよくわからない問題でもあります。単に日本の低金利資金を犯人にするのではなく、その背景にもっと突っ込んでみてほしかったです。


ということで、浜矩子先生のこの本。現在の危機(恐慌?)について、なにが起きているのか?をザクッとつかむのにはよくできた本だと思いますが、より本質的に考える上では、もうひとつ物足りないように思えます。
でも、とにもかくにも浜先生の表現が妖しく魅力的です。