投資と利子率について

ちょっと間が空いてしまいましたが...
前回のつづき。

  • 長期においてどのようにして総需要と総供給が均衡するのか?
  • 現在の主流派の経済学では、長期においては供給側が生産量を決めるという「セイの法則」が成立すると考えられているが、それはなぜか?

ということを考えるために、マクロ経済学における「投資」と「貯蓄」について、前回はまとめてみました。

話を整理すると
 総供給 ⇒ 総所得
 総所得 ⇒ 消費 + 貯蓄
 総需要 = 消費 + 投資
で、
 貯蓄 = 投資
となれば、
 総供給 ⇒ 総所得 ⇒ 総需要
となって、「セイの法則」が成立すると言えそうだということです。
※あくまでも閉じた経済で考えています。実際には対外貿易がありますし、金融もグローバル化しています。


ところが現代の経済では、貯蓄主体と投資主体が異なります。では、どのようにして 貯蓄 = 投資 になると考えられているのか?


貯蓄する人たちは、銀行に預けたり、年金、保険、さらには株への投資など、なんらかの形で運用します(なかには札束をそのまましまっておく人もいるでしょうけど)。要は、金融市場にお金が流れるわけです。投資する人たちはというと、やっぱり銀行でお金を借りたり、株式を発行したり、なんらかの形で資金を調達します。そして貯蓄主体と投資主体の間を取り持っているのが、金融経済ということになります。


貯蓄する側は、できるだけ運用益や金利が大きい方がうれしいですが、ただ「株価が上がりそうだから消費を減らして貯蓄を増やそう」とか「金利が低いから貯蓄を減らして消費を増やそう」なんてことはあまりなさそうです。まあ、比較的安定していると考えていいのでしょう。(将来的な不安が増したとか、全体的に所得が増えたとか、そういうことがあれば「貯蓄」も変化するでしょう)
一方投資する側は、できるだけ少ない利子率で資金調達したい。当然、投資による利益にもシビアなはずです。利子率によって損益分岐点も変わってくるでしょう。となると、利子率によっては投資計画の見直しもじゅうぶんに考えられます。つまり利子率によって、投資は増えたり減ったりするのです。


「マンキューマクロ経済学1 第2版」より

 図3-7は、貯蓄と投資を利子率の関数として表したグラフである。このモデルでは貯蓄が利子率に依存しないので、貯蓄関数は垂直である(後でこの仮定は緩められる)。また、利子率が高くなるほど、採算の合う投資プロジェクトは少なくなるので、投資関数は右下がりである。

 図3-7は、ある財についての需要と供給の図にみえるかもしれない。事実、貯蓄と投資は需要と供給として解釈することができる。この場合、「財」は貸付資金(loanable funds)であり、「価格」は利子率である。貯蓄は貸付資金の供給であり、家計は貯蓄を投資家に貸すか、銀行に預金をして、銀行がそれを貸し付ける。投資は貸付資金の需要であり、投資家は、債券を販売して公衆から直接借り入れたり、間接的に銀行から借り入れたりする。投資は利子率に依存するため、貸付資金への需要量もまた利子率に依存する。
 利子率は、企業が投資したい額と家計が貯蓄したい額が等しくなるように調整される。利子率が低すぎれば、家計が貯蓄したいと思う以上に、投資家が生産物を欲しがる。つまり、資金需要は資金供給を上回る。この状況が生じると利子率は上昇する。逆に、利子率が高すぎると、企業が投資したいと思う以上に、家計は貯蓄したいと思う。資金供給量が需要量を上回るため、利子率は低下する。均衡利子率は二つの曲線が交わるところとなる。すなわち均衡利子率において、家計の貯蓄意欲と企業の投資意欲は均等になり、資金の需要量は供給量と等しくなる。


やれやれ、ようやく話が出揃ってきました。
長期においては供給側によって決まる。それゆえ失業率は長期においては労働市場によって決まる。そんな経済学の基本が、どのような考え方で成立しているのか?を、ずーっと追いかけてきました。そしてなぜそんなことをいちいち展開してきたのかというと、日本の長期的な停滞とはなんなのか?構造改革派の人たちが言うように、本当に供給側の問題なのか?日本の失業率の上昇は、労働市場が硬直化しているせいなのか?いったいどうなんだ???っていうことを考える上で非常に重要だと考えたからです。


で、そう考えるとやはり気になる点がいくつか出てきます。。

  • 利子率にマイナスというのはあり得ません。日本みたいに金利がゼロに近い状態になっても、投資需要が不足するというのはどういうことなのか?
  • 利子率がゼロになっても、貯蓄が投資を上回るような状況は、どのような原因が考えられるのか?
  • 投資需要は、利子率以外には、どのような要因によって増えたり減ったりするのか?
  • 貯蓄率はどのようにして決まるのか?そもそも日本の異常な貯蓄率の高さはどのような原因が考えられるのか?

というわけで、この話、この後どういう方向に持っていこうか、ちょっと思案中です。
まずは、日本の長期停滞について、経済学者がどのように考えているのか、構造改革派とリフレ派を中心に整理してみようかとは考えています。